F.P.ジュルヌのケース&ダイヤル専門メーカーがリニューアル。

F.P.ジュルヌのダイヤルとケースに特化した最新鋭の製造会社、レ・カドラニエとレ・ボワティエ・ドゥ・ジュネーブに招待され、これからご紹介する幾多もの設備、特注設計の施設、優秀なスタッフたちに投資した数千万スイスフランは、ブランドの総生産(本)数を増やすものではないと伝えられたことは、考えてみればおかしな話である。

 F.P.ジュルヌは、年間約1000本の機械式時計と、約500本のクォーツモデル“エレガント”を生産し続けている。ジュネーブ郊外にあるメイランに昨年竣工した新社屋には、ジュルヌ氏が単独支配するダイヤル/ケースメーカー両社が入居しており、数十年にわたるジュルヌの自社製造へのこだわりが、ほかのブランドには類を見ない形で表現されている。しかしこれらの新しい施設は、拡張のための余分なスペースをほとんど持たずに設計された。実際、レ・ボワティエ・ドゥ・ジュネーブの地下室には、将来的に数台の新型機械を置くのに十分なスペースしか確保されていない。確かに、こうした制約要素はジュネーブの旧市街にある本社の敷地が、そもそもムーブメントの製造と組み立てを行うという前提に依る。しかし、それは本質ではない。F.P.ジュルヌは自社の目標をよく理解しており、今日のマーケットにおける最高峰の時計を作りながら、彼らなりの生産方式に注力しているのである。

F.P. Journe’s Old Town Geneva Manufacture
ジュネーブ旧市街の歴史的建造物内に居を構えるF.P.ジュルヌの工房兼本社。

これこそが“ジュルヌ”の真髄だ。彼自身と彼の会社(モントル・ジュルヌSA)は、スイスの時計業界において安定した力を持ち、人気のリシャールミルスーパーコピー 代引き専門店独立系時計メーカー特有の緩慢ながら有意義な成長を続けてきた。しかし、昨今の時計業界の盛り上がり(そして顧客のブランドに対する飽くなき需要)にもかかわらず、ジュルヌにはひとつのシンプルな真理がある。それは「変わるものと同じくらい、変わらないものがある」ということだ。ジュルヌにとって成長とは、“拡大”よりも“革新”を意味するのである。

 見学を始めるにあたり言っておくが、この記事は長く、かつ詳細にわたるので、部分的に読むことをおすすめしておこう。多くの場合、ブランドは製造現場のほぼすべてを取材するために時間を割くことができなかったり、機密のため非公開だったりするものだ。しかし今回の取材にあたり、F.P.ジュルヌはこの春先の2日間、本記事のために惜しみなく門戸を開いてくれた。

本社と旧市街のマニュファクチュール
生産数が増加しないからといって、何も変わっていないと揶揄することは、F.P.ジュルヌがジュルヌたる真髄を見逃すことになる。ジュルヌは、何世紀にも遡る時計製造のプリンシプル(原理原則)に革新をもたらしながら、製造技術を融合させ、過去の偉人たちと未来の可能性をつなぐ存在として歩を進めている。彼のヒーローであるアンティード・ジャンヴィエ(Antide Janvier)、アブラアン-ルイ・ブレゲ(Abraham-Louis Breguet)、ジャン-アントワーヌ・レピーヌ(Jean-Antoine Lépine)、そして師であるジョージ・ダニエルズ(George Daniels)の面影さえも、ジュルヌの作る時計には窺えるのだ。

 多くの独立系時計メーカー(および一部の大手ブランド)がさまざまな外部サプライヤーに依存しているのとは異なり、ジュルヌの機械式時計は、ほぼすべての部品が自社製造されている。レ・カドラニエはF.P.ジュルヌのダイヤルを製造しているだけでなく、ほかのブランドのダイヤル修復(フィリップスのこの記事を参照して欲しい)や現行モデルのダイヤル製造も手がけている。現時点でF.P.ジュルヌが製造していない部品は、風防、ヒゲゼンマイ、受け石、脱進機の一部、ストラップのみである。エレガントの電子回路もスイス国内で製造されている。しかし、この解説については別の機会に譲ろう。

F.P. Journe Headquarters entry
F.P.ジュルヌ本社では、1855年にC.L.デトゥーシュが製作し、ラ・ショー・ド・フォンの国際時計博物館が3年かけて修復した素晴らしい天文時計が出迎え役を務める。背景には故ジャン=クロード・サブリエ(Jean-Claude Sabrier)の膨大な蔵書が収められている。

F.P. Journe Clock detail
Clock
FP Journe Headquarters
本社入り口のラウンジ。

 需要の増加以外にも、この10年で起こった大きな変化は数えきれないほどある。2015年のマニュファクチュール訪問を振り返ってみると、まず目に飛び込んでくるのは、2006年以来メゾンの主力であったアイコニックなソヌリ・スヴランの製造が終了したことだ。フランソワ・ポール(François-Paul)自身が2018年、(当時)彼らがつくる最も複雑な時計が特別とされた理由のひとつに、わずか50本強というその限定生産数にあるとの判断から、このモデルを2019年に製造中止としたのだ。

 この製造中止はひとつの収益源を絶つ代わりに、アストロノミック・スヴラン(私がHands-On記事を執筆したなかでもっとも複雑な時計のひとつ……、とまで言わないが)やFFCのようなほかの複雑モデルへの扉を開いた。このような時計は、ジャンヴィエやブレゲ、ともすればダニエルズの想像の域をも超えているのではないだろうか。同時にこのような時計は、極限に近づくためにCNCマシンのような近代的な工業生産技術を採用したからこそ可能となったのだ。そうでなければ、このブランドの総生産本数に説明がつかないだろう。しかし、彼の時計をつぶさに観察すると、(適切に介入する)手作業と、(必要に応じた)工業化のバランスに対する理解と対策が、ほかの伝統的な独立系メーカーが到底及ばないようなスケールで行われているのが見て取れる。

F.P. Journe Library
F.P.ジュルヌが2015年のオークションで全273ロット(約1000冊)を計76万スイスフラン(当時のレートで9560万円)で落札した、国際的な時計専門家であり著名な歴史家であるジャン=クロード・サブリエの著作の蔵書コレクション。

F.P. Journe Sketch
F.P.ジュルヌのサインと日付入りのスケッチ。右下はオクタ・カレンドリエ、左は初代クロノメーター・ア・レゾナンス。

 手作業は喜ばしいのことに、いまでも必要とされている。ジュルヌは価格の割にムーブメント仕上げは最高とは言えない、という時計コレクターの批判をよく耳にする。実際そのとおりだ。ジュルヌはあっさりと認めるだろう。しかしそれは、その分野に力を注いでいないからにほかならない。その代わりに、時計製造の革新に時間と資金と人手を費やすことを選んだのだ。もちろん、手作業による仕上げも行っているが、その目的は、デュフォーやレジェップの二番煎じのような存在になることではなく、ジュルヌをジュルヌたらしめるためなのである。

 F.P.ジュルヌはスイスの工場で約150人雇用している。しかし、先に述べたふたつの非常に複雑なモデル(アストロノミックとFFC)を組み立てることができるのは、社内ではわずか3人(F.P.ジュルヌ自身を含めて4人)しかいない。しかし、ジュルヌは常に革新を続け、新たな挑戦をチームに課している。フランソワ・ポールの歴史的な快挙の一部は、毎年新しいムーブメントを作ることにある。そのような作品を作り出すためには、ジュネーブのシナゴーグ通りにある本社に出勤し続けなければならないが、そこはジュネーブのモントル・ジュルヌを訪ねるほとんどの人が目にする場である。建物内部は前回2015年の訪問時とほとんど変わっていない。ブランドに対する需要がどれだけ増えても、核となる部分は変わらないというのはある意味安心できる。

Antide Janvier resonance clock
2002年、F.P.ジュルヌはこの素晴らしいコレクターズアイテムを手に入れた。フランスの時計職人、アンティード・ジャンヴィエが1780年に製造した二重振り子のレゾナンス・レギュレーターである。ジュルヌはこれを、彼のクロノメーター・ア・レゾナンスと、彼(およびアブラアン-ルイ・ブレゲのようなほかの偉人)にインスピレーションを与えた18世紀のウォッチメイキングの架け橋と呼んでいる。この時計は現在、正面玄関の脇の会議室に(とても控えめに)置かれている。この時計は3台製造されたことがわかっており、残り2台はジュネーブのパテック フィリップ博物館とトゥールーズのポール・デュピュイ美術館に収蔵されている。

F.P. Journe Basement
F.P.ジュルヌ本館の地下には、時計のムーブメントを構成する部品の大半を製造するCNCと電気放電加工機が置かれている。

Milling mainplates
この機械は、ブリッジや地板の大部分に施されるサーキュラーグレイン仕上げを担っている。アストロノミック・スヴランやFFCなどでは、いまでも手作業でこの仕上げを行っている。

Movement plates sitting in a tray.
トレーにセットされたムーブメントの地板。

Checking mainplates
ムーブメント地板はそれぞれの穴に合わせた特別な工具で評価され、正確なサイズにフライス加工されていることが確認項目とされている。また、すべての地板をバーテックスのカメラで撮影することで、ミクロン単位での正確な品質管理が可能となっている。

Checking mainplates
Bridges and gongs for FP Journe
帯電したワイヤー(スプールから供給)で金属片を切断してできた、電食加工された時計の部品。右上に見えるのは、F.P.ジュルヌのチャイミングウォッチ用ゴング。

Dial component for the Centigraphe
サンティグラフのダイヤル用の金属部品

Electro erosion machines
タングステン製ワイヤーの青いスプールとともに、左側に電気浸食機械が見える。

F.P. Journe After-sales service
最終管理室。時計職人による組み立てが終わると、入念なチェック(美観、機能、防水性のチェック)が実施される。

F.P. Journe After-sales service
Screw Making
ここはふたつめの機械工房で、CNCマシンを使用して、ピボット、ピニオン(小径歯車)、ネジ、軸、歯車など、ジュルヌ曰く“革命的な”部品を製造している。F.P.ジュルヌは、これらの部品の製造に、スティール、真鍮、チタンなどの金属棒を使用している。

Screw making
ネジの製造工程。

F.P. Journe
22番目の工程。ムーブメントの受け石のセット、つまりさまざまなルビーの取り付け作業をする担当者。

Polishing
手仕上げ部門に移る。すべての部品が手作業で仕上げられるわけではないが、ここではフライング“エガリテ”のブリッジの面取りのためにヤスリで磨いているスタッフの姿を見ることができる。

Finishing department
バフ研磨機でムーブメントの地板のエッジを磨く。

Perlage
ペルラージュ加工の下準備。

F.P. Journe upstairs hallway
F.P.ジュルヌの旧市街にあるマニュファクチュールの2階廊下。時計がひとりの時計職人によって一貫して組み立てられるのと同じように、各部屋がひとつまたは複数のモデル専用となっている。研究開発は地下にあり、アフターサービスはこのフロアの端にある大きな工房で行われる。

F.P. Journe Master Watchmakers
F.P.ジュルヌの主任時計師であるクリストフ(Christophe)とローラン(Laurent)は、現在F.P.ジュルヌが製造している時計のなかでもっとも複雑な時計、アストロノミック・スヴランの製造に携わっている。

F.P. Journe Astronomic Souveraine Movement
すでに組み立てが始まっている。こちらはケースバックから見える側。

F.P. Journe Astronomic Souveraine Movement
正面から見ると、日の出から日没までの1日の長さを示す外側のリングと、サファイア製のデイ/ナイトディスクが見える。

F.P. Journe Master Watchmaker
クリストフと……、

F.P. Journe Master Watchmaker
ローラン。

Parts
そして、仕事に必要な工具。

Small Part
彼らがどれだけ小さな部品の作業をしているか直感的に理解したいなら、テンプとの対比が役に立つはずだ。

Hands for the FFC
隣の部屋では、別の主任時計師がこの珍しいムーブメントを組み立てている。

Hands for the FFC
組み立てる前の“手”を模った部品。

FFC Watch
こうして出来上がったのが、手のジェスチャーが時刻を示すFFC。

Movement Parts
ムーブメントの組み立てには、必要な部品がすべて揃っていることを時計職人が確認するために、キットに部品が集められる。

Parts
フランソワ・ポールのオフィスはとても控えめで、ビルの正面でもなく、一番広い部屋でもない、作業に必要にして十分な空間が確保されているのみである。

レ・カドラニエとレ・ボワティエ・ド・ジュネーブ – スイス、メイラン
 レ・カドラニエとレ・ボワティエ・ド・ジュネーブの物語は、F.P.ジュルヌの初期に遡る。フランソワ・ポールは、トゥールビヨン・スヴランとクロノメーター・レゾナンスのすべてのスースクリプションモデル(およびレゾナンスの同制度導入前のモデル)のダイヤルを製作した。これらの作品はもっともコレクターの多い作品のひとつだが、ブランドの歴史のなかで最高のダイヤルでないことは明らかだ。ジュルヌはすぐに、独立性を保ちながらダイヤル製作を拡大し、向上させる必要性を認識した。今回、メイランで目にするものはすべて、初期のジュルヌから生まれたと言える。

Les Cadraniers and Les Boîtiers de Genève
レ・カドラニエとレ・ボワティエ・ド・ジュネーヴの建屋入り口。

 ダイヤルとケースの製造施設を自社で所有するメリットは語り尽くせないが、その何点かをもう少し詳しく紹介しよう。まずは何よりも、供給面を自社でコントロールすることで、需要の増加に追いつけない外部サプライヤーからの脆弱な流通に頼らざるを得ない多くの時計メーカーを悩ませてきた“ボトルネック”を必然的に避けることが可能となる点だ。そしてもうひとつ、明らかな利点がある。F.P.ジュルヌは、望むものを、望む方法で、望むときに、望む水準で作ることができるのだ。

 両社の現在の製造施設は、本拠地としている建物の3年にわたる改修とメンテナンスを経て昨年オープンした。ヴェイロー通りにあるこの建物は、ラ・ファブリク・デュ・タンを含むその他多くの時計メーカーの工場に隣接しているため、近くにあるレストランで昼食をとっていると他ブランドの時計を見ることは珍しくない。ジュルヌの工場がある建物は3年前に取得するまでしばらく空きビルになっており、建物全体を解体して完全にオーダーメイドで建て直された。ブランドの要求に応えるため、床材はダイヤル製造などに影響を与える振動を遮断する必要があり、空調管理やセキュリティもすべて最新式に改められた。

 メイランの施設はひとつの建物を共有しているが、ふたつの子会社は互いに完全に隔離されたうえで運営されている。ケース製造施設で行われる作業(振動、金属粉塵など)は、ダイヤル製造の微細な公差に悪影響を及ぼす可能性があるからだ。しかし後述するように、レ・カドラニエとレ・ボワティエ・ドゥ・ジュネーブはそれぞれ異なる顧客にサービスを提供している。

レ・カドラニエ – ダイヤル製造業者
 フランソワ・ポール・ジュルヌ(François-Paul Journe)にとって、すべての始まりは常にダイヤルからだ。現在でも、ジュルヌはひとりで研究開発部門を担っている。探求する価値のあるあらゆるアイデアは素早くさまざまな部署に伝達され、そのなかにはレ・カドラニエ・ドゥ・ジュネーブのR&Dダイヤルデザイン部門も含まれる。彼らはそれぞれのアイデアを取り入れ、可能性を追求し、その結果をF.P.ジュルヌにフィードバックして成果を共有する。私が好きなほかのメーカーのムーブメントには、ダイヤルデザインがさほど美しくないものも数多く存在する。ムーブメントのレイアウト上、インダイヤルは決まった位置に配置する必要があり、ときにはダイヤル中央や下方に押し込まれ、視覚的なバランスを崩してしまっている。ダイヤルレイアウトを起点にムーブメント設計に向かう場合、設計そのものは難しくなるが、その結果として手首のうえでは常に美観を保てるようになる、というわけだ。

FP Journe dials
レ・カドラニエでできることのさまざまな例。

Chronometre Bleu dials
ウォッチメイキングにおいてもっとも象徴的なダイヤルのひとつに数えられるクロノメーター・ブルーは、非常に繊細なブルーラッカーの層で構成され、焼成の合間にポリッシュ仕上げが施される。不良率は約30%で、クロノメーター・ブルーの総生産量は年間200本という高い水準から現在50本程度にまで減少している。

 レ・カドラニエに関してもっとも興味深い事実のひとつは、それをF.P.ジュルヌのためだけに供給しているのではなく、ほかの時計メーカーを含む時計業界全体にとって最高のハイエンド・ダイヤルメーカーのひとつとなっているということである。これはすべて、レ・カドラニエがその歴史とF.P.ジュルヌのもとでの最終的な独立を経て歩んできた、長く曲がりくねった道程を思い起こさせる。

 F.P.ジュルヌは、初期のハンドメイドダイヤルの作品を経て、(当時マックス・ブッサーの指揮下にあった)ジュエラーの雄、ハリー・ウィンストンおよび時計師セドリック・ジョナー(Cédric Johner)と提携し、F.P.ジュルヌ設立からわずか1年後の2000年にレ・カドラニエを設立した。この経緯を振り返って印象的なのは、ジャンヴィエ・クロックの初期の買収と同様、ジュルヌはブランド設立からわずか2年という黎明期に大胆な(そして率直に言って高額な)経営の意思決定を下したということだ。しかし、それが功を奏した。2012年までに彼のほかのふたりのパートナーはレ・カドラニエを去り、ヴァシュロン・コンスタンタンが事業の50%の株式を取得して参入した。2016年、ジュルヌはヴァシュロンから買い戻したが、同ブランドは依然として優良な顧客である。

FPJ dial
この工房のチームは、技術部門が製図した図面に基づいてCNC加工シーケンスの要件定義を落とし込む。F.P.ジュルヌは、あらゆる素材(真鍮、ニッケル、シルバー、ゴールド、プラチナ、マザーオブパールなど)の部品(ダイヤル、カウンター、インデックス、アプライドの数字マーカーなど)を加工することができる。

CNC Bits
CNCマシンは工具を素早く交換するために、従業員は工具が高品質な生産を続けるうえで必要な規格と鋭さが基準内に収まっていることを注意深く監視しなければならない。

CNC Bits
機械が稼働し、工具が較正(こうせい)されるあいだ、多くの予備の工具が待機していた。

 F.P.ジュルヌのムーブメントと同じように、レ・カドラニエ・ドゥ・ジュネーブのダイヤル製作は、テクノロジーと手作業の絶妙なバランスで成り立っている。そして、ダイヤルメーカーとしての独立性と高い技術力よって彼らはさまざまな技術に挑戦し、業界をリードするようになった。なかでも興味深いのは、ひと目でわかる夜光塗料を使った同社の技術である。もしシャープな形状の立体的な夜光が、囲いもなく堂々と切り立っているダイヤルを持つ時計を見たことがあるなら、それはレ・カドラニエの作品である可能性が非常に高い。ジュルヌのエレガントに限らず、UVライトの下でも明るく輝き、暗い斑点が文字盤に滲みを生じさせないような全面夜光のダイヤルを見たことがあるのなら、それもおそらくレ・カドラニエの仕事に違いない。

 次に素材についてだ。真鍮製のダイヤルは、今回登場することはない。F.P.ジュルヌはローズゴールドやホワイトゴールド無垢でできたダイヤルを使うことで有名だが、レ・カドラニエはシルバー無垢やジャーマンシルバーも扱っている。その工程は、CNCによる地板の削り出し、サブダイヤル用の穴あけ、開口部、ダイヤルの足、アプライド用数字マーカーを配置するための穴あけから始まるが、この穴周辺にも面取りが施されるなど、細部にまで細心の注意が払われている。工程が進むにつれ、手作業はますます重要になってくる。