ミレジム センターセコンド シェルマン リミテッド エディションが発表された。

ミレジム(millésime)は元々、フランス語で“ヴィンテージ”を意味する言葉だ。1971年よりアンティークウォッチを中心に扱ってきたシェルマンとの協業により生まれた本作は、クラシカルなシャンパンゴールドのダイヤルを備え、ある意味そのモデル名に忠実なルックスに仕上がっている。ダークブラウンのレザーストラップとの取り合わせも王道で、エレガントな印象だ。

ミレジムはレイモンド ウェイルの名前を一躍有名にしたモデルだ。きっかけは2023年のGPHGにおける「チャレンジウォッチ賞」の受賞。1930年代に人気を博したセクターダイヤルを現代的な技術でアップデートし、ピュアでミニマルなデザインに仕上げたことが時計愛好家の琴線に触れた。39.5mmという、大きすぎも小さすぎもしない絶妙なサイズも汎用性に優れ、加えてセクターごとに高さを変え、それぞれに異なる仕上げを施すという繊細なアレンジも高く評価されたようだ。その後35mmの小径モデルやクロノグラフなどの登場で着々とコレクションは厚みを増し、現在ではブランドの代名詞的な存在へと成長した。今回の限定モデルは、そのなかでもセンターセコンドのモデルをベースとしている。

1月31日(金)に開催されたプレスカンファレンスでは、そのあたりの決定についても話があった。開発段階ではよりクラシカルなスモールセコンドも選択肢として残っていたそうだが、最終的なバランスを見て、シェルマン側の判断でセンターセコンドが採用されたようだ。2023年にはサーモンダイヤルのRef.2925-STC-80001をはじめとしたバリエーションがいくつかリリースされており、スモールセコンドに劣らず高い人気を誇っている。

このカンファレンスのために日本に駆けつけたというレイモンド ウェイルCEOのエリー氏は、シェルマンとの共同開発のなかで大きな衝突はなかったと語った。「(ヴィンテージライクな時計にしたいという)シェルマンからの最初の提案がすでにクリアなものでした。私の意見やミレジムとのコンセプトとも一致していたので、スムーズでしたね」。今回においては、ヴィンテージウォッチを愛好し、イメージを共有する者同士による企画であったことが功を奏したのだろう。

そのようにしてリリースされたミレジムのシェルマン限定モデルは、シャンパンゴールドカラーダイヤルによって気品溢れる佇まいを獲得している。このカラーについてはエリー氏の強いこだわりがあったようで、数多くのカラーサンプルから話し合いのなかで厳選し、決定されたようだ。さらに、シェルマン側からの要望によって文字盤上のブランドロゴ、および針のカラーは黒からアンスラサイトに変更。これにより主張が抑えられ、より落ち着いた雰囲気となった。また、クラシカルな書体で綴られた“12”時のアラビア数字も、3針のミレジムとしては初めて採用されたものだ。ブレゲ数字のようにも見えるが、現在35mm径のムーンフェイズモデルで使用されているものだという。

さらに細かい点にも触れていこう。よく見ると、時間を示すセクターのインデックスがバーからバーにスクエアを組み合わせたものになっていることがわかる。これは60年代ごろのポール・ニューマン デイトナをはじめとしたシンガー社製の文字盤を持つ時計に多く見られたディテールだ。実はレイモンド ウェイルからも、90年代ごろに同じあしらいをサブダイヤルに備えたクロノグラフウォッチがいくつか登場していた。もちろん年代的にレイモンド ウェイルがシンガー社の文字盤を使用していたとは考えにくいので、デザインにあたり参照していたのだろうと思う。本作の文字盤について特定のモデルをベースにしていないということだが、エリー氏のファーストウォッチがこのディテールを備えたパルシファル クロノグラフであったという逸話も踏まえると、もしかしたらこっそりと取り入れたのかもしれない。

ムーブメントはセリタのSW200をベースとしたCal.RW4200。パワーリザーブは約41時間で2万8800振動/時で駆動する。ローターにあしらわれたブランドイニシャルの“W”が印象的だ。裏蓋の下部には手元の時計が限定30本のうち1本であることを示す刻印も施されていて、ふと目に入ったときに所有欲を満たしてくれる。価格は30万8000円(税込)で、シェルマンの銀座 三越店、日本橋 三越店、新宿 伊勢丹本館店で30本限定で3月1日(土)より販売される。すでに各店では、実機を手に取って確認することも可能だ。

ファースト・インプレッション
シェルマンはもともと、銀座 三越店でレイモンド ウェイルを取り扱っていた。そして昨年にセクターダイヤルをあしらったミレジムが登場、GPHGでチャレンジウォッチ賞を獲得したタイミングで、ヴィンテージウォッチを中心に取り扱う時計店としてシェルマンなりのアレンジを取り入れたものを作りたいという思いがあったのだという。レイモンド ウェイル側もシェルマンのコンセプトに強く共感し、社内でも賛同の声が多く挙がったことから、今回のパートナーシップが実現した。

なお、これまでにさまざまな独立時計師と行ってきたコラボレーション同様に、本作のディテールにはシェルマンならではの神経質とも言えるアレンジが加わっている。たとえば先に挙げた12時位置のアラビア数字は、極力サイズを大きくしながら全体の雰囲気を壊さない繊細な調整のうえに配置。ブランドロゴについても、シェルマンはまずブランド側にサイズダウンの打診を行っている。ロゴの色変更は、それが叶わなかったうえでの次点の策だ。日本を代表するヴィンテージウォッチ取扱店として理想の時計像を追求するシェルマンならではのこだわりが、この一見してシンプルな限定モデルには詰まっている。

しかしミレジム シェルマン限定モデルは、ただ古きよき雰囲気を追求しているわけではない。その顔立ちは、サイズといい仕上げといいどこか現代的でもある。「セクターダイヤルのように、ヴィンテージを強く感じさせる要素を現代のブランドがどう表現するのかに興味があります」と僕に話してくれたのは、今回の限定モデルの企画に携わったシェルマン 日本橋 三越店の竹下店長だ。彼はプレゼンテーションの最中にも、なぜスモールセコンドではないのかという参加者の問いに「ヴィンテージをそのまま再現するのではなく、今考えられる“将来的なヴィンテージ”を目指している」と返答していた。本作で見られたヴィンテージ&モダンのバランス感も、このような意識から生まれているのだろう。

なお、先のセクターダイヤルに関するコメントは、「なぜシェルマン限定モデルにはセクターダイヤルが多いのか」という素朴な疑問に対する答えだった(ハブリング²にアトリエ・ド・クロノメトリー、アンデルセン・ジュネーブなどがまさにそうだ)。「セクターダイヤルばかりを意図して選んでいるわけではありません。しかしやはり私たちが好むものというのは明確ですし、おのずと多くなってしまっているというのが現状でしょう」。そして、次のように続けた。「私たちのてがけた時計が、過去と現代との橋渡し的な存在になってくれたらうれしいですね」

業界におけるヴィンテージウォッチの権威であるからこそ、現在、未来を見据えたものづくりを行うシェルマン。今回のミレジム シェルマン限定モデルには、その精神が強く息づいている。実際に撮影の合間に手首に巻いてみて、古典的なエレガントさだけでなく、デイリーに楽しめる普遍性も感じられた。あくまでも、レイモンド ウェイルがミレジムで目指す“ネオ・ヴィンテージ”の延長線上にあるモデルなのだ。